第33章 11月21日。✿保科宗四郎✿裏
「最後のひと口や。君が食い?」
モンブランが乗ったフォークを差し出されて戸惑う。恐らくそれは、私の口に直接入ってくるだろう。それでも恐る恐る口を開けた。唇は震えるし、心臓はそのまま口から飛び出そうだった。
約8ヶ月、彼と過ごし、強引さがあるところも、厳しいくせに誰よりも優しいところも、誰より部下を思っていることも、痛い程知っている。
私はそんな彼に惹かれた。過去のことは知らない。でもたまに、彼の陰口を聞いたことがある。彼は副隊長になるまでに、どれ程の努力を積み重ねたのだろう。それは副隊長になっても変わらず、部下の訓練を見る中、自身も毎日、厳しい訓練を欠かさない。
口の中に入ったモンブランは、仄かな甘みだけを感じさせて、他はあまり味がしなかった。
「三浦、さ……男おるん?」
「え?……彼氏、ですか?…いえ……」
目の前でいきなりそんなことを聞かれ、返答はたどたどしくなってしまう。「そうか…」と薄ら覗かせた瞳が私を射抜く。
気付けば副隊長の顔は、私の視界を覆っていた。唇に感じる柔らかさと僅かな温かさ。ふにっと唇が形を変える。副隊長の唇は私の唇を挟み、何度も食んだ。
熱い舌が中に入りたいと、閉じたままの唇を何度も押す。私は固く閉じていた。だって…なんでこんなことをするのかわからなくて、緊張するんだもの…。