第33章 11月21日。✿保科宗四郎✿裏
訓練終わり、食堂の冷蔵庫に入れさせてもらっていたモンブランを手に取る。休憩室に行くと誰もいなかったので、ここでこっそり食べよう。
フォークを刺し掬って、口に運ぼうとしたら――その手を掴まれ、私のモンブランは誰かの口の中に入った。振り返り、文句を言ってやろうと口を開く。だけど、開いたままの口から音が出ることはなかった。
「ん…美味いな。どこで買うたん?」
咀嚼し喉が上下するのを、至近距離で見つめる。
「……副隊長?」
やっと出た声は消え入りそうな程、細かった。
こんなところで何をしてるのだろう。いや、別に…誰がいつ来ようといい場所だが。
「食わへんの?……ほな、僕が食ってまお」
そのまま彼は、私の手にあるモンブランに齧り付いた。副隊長の胸が私の背中に当たっている。意外と柔らかいんだ…苦しくなる程の鼓動を遠くに聞き、そんなことを考えていた。
歯型がつき、半分程になったモンブランを見つめる。だが、慌てて副隊長を座らせ、「どうぞ」とモンブランを差し出した。
「あれ?ほんまに食わへんの?」
「……元々は副隊長のものです」
意味がわかっていない顔を浮かべ、それでも「ありがとう」と受け取る。私が誕生日を知らないと思っているのだろうか。
あぁ、ここで「おめでとうございます」とか言えたら、副隊長は笑ってくれるだろうか。けれど、他の人と同じ物を、誕生日プレゼントとしてあげたくはなかった。