第33章 11月21日。✿保科宗四郎✿裏
防衛隊第3部隊所属、副隊長――保科宗四郎。今日はそんな彼の誕生日。11月21日――1年で最も特別な日。私にとっても__。
午前の訓練を終え、昼食も食べずに、基地から出た。ケーキ屋さんでモンブランを買う為だ。この日の為に副隊長の好きな物をリサーチしていた。モンブランならケーキだし、誕生日にちょうどいい。
入隊1年目の私。副隊長1年目の保科副隊長。彼は新人の教育係。ちなみに、彼の訓練はめちゃくちゃスパルタだ。普段は優しいのに、訓練の時だけ鬼のよう…。
ケーキ屋さんで目当てのモンブランを見付け、急いで会計を済ませる。本当は何か形に残る物を渡したかった。だけど、私はただの部下。モンブランだって、手作りしたかった。でも、彼女でもないただの部下から手作りなんて重すぎるだろう。
「副隊長、喜んでくれるかな…」
淡い期待を抱きながら、執務室へと足を運んだ。
既にご飯は食べ終わっているだろう。仕事人間の彼のことだ、訓練で手をつけられなかった事務作業をしているに違いない。
扉が開いたままの執務室。その中を覗き込むと――副隊長は女性隊員からモンブランをもらい、嬉しそうにその場で食べていた。
私が勝手に用意した物。副隊長の好物。被っていて当たり前だ。渡せない…モンブランが入った箱の取っ手をギュッと握り、執務室に背を向ける。
「三浦?どしたん、用あるんとちゃうの?」
私がいることに気付かれていたようで、慌てて副隊長の方を向く。モンブランは背中に隠して、敬礼をした。
「いえ、大丈夫です。失礼します」
持っている箱の存在がバレないように、でも怪しまれないように、出来るだけ普通を装って、箱を隠しながら執務室から離れた。