第32章 Changing Love✿保科宗四郎✿裏
「……する?」
二つの笑い声が消えて少し静かになった頃、私はとんでもない発言をしてしまう。でも、後悔はしていなかった。宗四郎なら、いいと思えたから。でもきっと、宗四郎は――断る。
少し沈黙が流れた。
「……そやな。ええかもな」
屋上の扉に消えていく背中を追いかける。まさか宗四郎が頷くとは思わなかった。驚いてはいるが、今更拒むことはしない。宗四郎の親友が私の恋人だったとしても、もういないのだ。私たちが身体を重ねることで、過去に出来る気がした。
それだけじゃない。まだ悠稀への想いは消えないけど、今、心に灯りつつあるのは――宗四郎への慈悲のようなもの。そして、深い感謝と謝罪。
執務室に寄り荷物を持った宗四郎はまた歩き出す。私も荷物を持って追いかけた。もう追いかけるのは、見えない背中じゃなくて、目の前の小さな背中になっていた。
「ほんまにええんやろ?僕ん家入ったら、後戻りは出来へんで。冗談やったら今のうちに言うとき」
「いいよ。私、宗四郎が好きかもしんない」
「それ…ほんまに言うとる?悠稀と結婚する言うとったくせに」
寂しげにぶら下がった手を握った。きっと、悠稀のことは一生好きだと思う。それでも、今、私は生きていて、目の前にいるこの、何もかもを背負った男も生きている。私の苦しみを全て受け取ったこの人が私は…特別だと思っていた。