第26章 虚虚実実✿保科宗四郎✿裏
「僕、飯作るから風呂入っとって…あぁ、後で一緒に入ろか」
私の手を見た彼はすぐに意見を変えた。家に帰ってきてすぐに彼は隊服の上着だけを脱ぎ、キッチンへと向かう。そんな彼に私はありがとうと返して何か出来ることはないかと探すが、この手ではどうすることも出来ない。結局、保科くんに仕事だけではなく、私生活でも負担をかけてしまっている。
ご飯を作り終えた保科くんはテーブルに運び、同じ箸を使って私に食べさせながら自身も食べている。時間はかかるが、自分で食べられるのに…。
食べ終わるとお風呂を沸かしてきて隣に座る。
「いろいろやらせちゃってごめんね…」
「気にせんでええ。なんや、いきなり一緒におれるなぁ…嫌やなかったら、どっちかに恋人出来るまでここにおってもええで」
もう僕のこと嫌いやろうけど…と呟く彼を見つめて、どうすればいいのかわからなくなる。謝れば許してくれるだろうか、前みたいに些細なことで笑い合えるだろうか。それでも、謝罪を受け入れてもらなかったらと思うと、何も出来なかった。
お風呂が沸くまで横になってようと、保科くんの膝に頭を乗せる。特に嫌がったり何かを発したりすることはなかった。ボーッと仕事用のスマホを弄る彼の顔を見つめる。気付いた彼はなんかついとる?と頭を撫でて笑う。それを見て、涙が出そうになった。
「どしたん?痛いん?」
「うっ…ッ、好き…ごめんなさい、嫌いなんて言って…」
私をゆっくり起き上がらせ、自身の膝に座らせる。そのまま優しくキスをし、額を合わせて見つめ合った。
「やっと好き言うてくれた。僕も好き。君以外は考えられへん」
右手を首の後ろに回しぎゅっと抱き締めた。私、いつから保科くんに好きって言ってなかったっけ…今の状況になってからは絶対言っていない。保科くんはよく言ってくれた、2人きりになるタイミングがあればすぐに言ってくれた。それなのに私は返していなかった。その状態で嫌いなんて言われたら、不安で堪らないだろう。
「好き言わせる為の荒療治やったけど、意外とすぐ言うたな。僕のこと大好きやん。辛い思いさせてごめんな」
あれは嘘だったってこと?酷すぎる…それでも彼女の私は彼を癒さなきゃいけないのに、何も出来ずにそこまでさせてしまったことへの申し訳なさから、何度も謝った。