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善い愛し方と悪い愛し方

第9章 あの花畑で[△不死川実弥]


そこから2年。
は15になった。

まだ贄に行く報せは来ていない。


しかしある日の夜、親父に呼ばれた。


「そろそろ頃合だ。日程はまた後日言う」

「………御意」


今までの贄の時はどうしてたか。
もう覚えていない。思い出せない。


そんな気持ちの中、家に帰った。


「おかえりなさい」


いつもと変わらない口調でそう言う。


「……ただいま」

「ご飯できてるから、すぐ準備するわね」

「……ん」


まだ言わない。
言うべきじゃない。
日程が決まっていないという事は、その日はまだ遠いってことだ。


「大丈夫?何だか元気がないようだけど」

「ああ。平気だ。飯にしようぜ」

「ええ」


いつもと変わらない日常。
だけどいくら日程が決まっていないとはいえ、はもうすぐ贄に行く。

それを知ったら泣くだろうか。怒るだろうか。
"逃げたい"って懇願してくるだろうか。

そうしたら俺は……どうするべきだろうか。





____
________



「明日儀式を行う。
贄にはそう伝えろ」

「承知致しました」

「今回の贄は逃げ出さなかったな。
しっかり見張っていたか」

「……えぇ」

「いつもみたいに最後まで見送れ」

「はい」


家に帰ると、は湯浴みを済ませたのか髪を櫛で梳かしていた。


「おかえりなさい」

「……風呂入ってくる」


湯浴みを終え、寝支度をしているに言った。


「明日だ」

「……」

「明日儀式を行う」

「……そう」



泣いてくれ。喚いてくれ。
逃げたいと言ってくれ。


死にたくないって。


言えないものなのか。
それが運命だと思ってるから。



「実弥、1つお願いがあるの」

「……何でも言え」

「今日は……1枚のお布団で寝ましょう」

「………………」

「最後に夫婦らしいことしましょうか」

「……あァ」



死にたくないって言えばいいのに。
なんでその一言が言えないんだよ。

今までの贄はその瞬間まで死にたくないって泣いていたのに。
俺に馬尾雑言を浴びせたのに。



「…………何でそんな顔をするの?」

「…………お前は馬鹿な女だよ」

「え?」

「早く寝ろ。明日は早い」




俺はそう言って部屋を出た。
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