第9章 あの花畑で[△不死川実弥]
「外に出る許可が降りた。
そう遠くは行けねぇが、外に出れるぞ」
「初めての逢引ね!」
「もうそーゆーことでいいわ……」
お嬢は俺の腕を組み、楽しそうに外に出た。
着いた先は花畑だった。
確かに遠くは行けないって言ったが、こんな近場でいいのか。
「実弥、花冠を作りましょう!」
「楽しいかァ?それ」
「そこは頷くところよ」
「へいへい」
お嬢は器用に花を摘み、冠を作り始めた。
あと2年後には食われるっていうのに、何でこう元気なのか。
少しでも楽しい思い出を作っておきたいのか。
それとも"ごっこ"遊びをしたいのか。
「完成!」
「器用だなァアンタ」
「名前で呼んでちょうだい」
「そりゃ無理だなァ。
命令でも無理。そういう決まりだからなァ」
そう言うとお嬢は頬を膨らませた。
頬に飯を詰め込みすぎた兎みたいだな。
そう思っていると、頭の上に冠を乗せられた。
「似合ってるわよ」
「……そりゃドーモ」
「ほら実弥、この花の蜜吸えるわよ」
「腹ァ壊しても知らねェぞ」
「毒じゃないから平気よ。はい、あーん」
「んぐ!」
花の蜜口どころか花そのものを口に突っ込まれた。
苦い。
「どう?美味しい?」
「苦ェ……」
「お花ごと食べたの?それは苦いに決まってるじゃない」
「アンタが突っ込むからだろ……」
「ふふっ、はいこれ。今度は先っぽだけ口に入れてね」
「……………甘ェ」
「ふふ」
あぁこいつ……こんな顔で笑うんだ。
今までの贄もこんな風に笑ってたのか…?