第9章 あの花畑で[△不死川実弥]
通常の贄なら1年か、早くて半年で捧げられる。
そうか。まだ15になっていないから、だからあと2年か。
しかし……
「俺が家事やるって言ったのによォ、
何でアンタがやるかねェ」
「まあ。夫に食事を出すのが妻の役目よ」
「……なァ、その夫ってなんの事だ?」
「貴方のことよ」
「俺ァいつからアンタの夫になったんだよ…」
「籍を結んでいなくても、一緒に住んでいるのだからもう夫婦よ。
はい、あーん」
この女は随分と頭のネジがぶっ飛んでいるらしい。
まぁ"ごっこ"でも、こいつが逃げなければいい。
また捕まえて足を折ることなんてしたくない。
差し出された食事を口に入れると、満足したように笑顔になった。
「美味しい?」
「普通」
「正直ね。嘘でも美味しいって言うのよ」
「不味かねぇよ」
「あーん」
俺が美味しいって言うまでやり続けるのか。
「美味しい?」
「……うめェ」
「なら良かった」
今までの贄はこんな事をしなかった。
泣いたり怒ったり。
出した食事を撒き散らかしたり。
贄に出す前に死なれると困るので、無理矢理食べさせていた。
餓死する心配はないが、これがあと2年続くとなると骨が折れそうだ。
「後片付けもお風呂も私がやるから、貴方はゆっくりなさってて?」
「………」
「貴方の役目は私を最後まで見張ること。
それさえしていれば、何も問われることは無いはずよ。
お母様もお父様も、私が捧げられれば何も言わないわ」
「アンタは悲しくねぇのか?
普通は泣いたり喚いたり……」
「それをすれば貴方はここから出すの?
しても無駄なことはしないわ。
私はお姉様たちみたいに泣いたり喚いたりしないから安心してね」
13の娘が言う言葉だとは思わなかった。
ただ、そういうこいつの表情は俺を移していなかった。