第8章 ほくろ[✩宇髄天元]
たくさんの人が彼女の見舞いに来た。
早く良くなれと言う者もいた。
海に行った次の日、彼女は洗面器いっぱいの血を吐いた。
血の塊を吐き、しのぶはそれが内蔵の一部だと理解した。
朦朧とする意識の中、彼女は天元の名前を呼んだ。
もう長くはない。
そう悟ったしのぶは天元を鴉で呼び、鬼殺隊の頭首、産屋敷に天元の休暇を申し出た。
鴉の報せを聞いた天元は蝶屋敷まで急ぎ、彼女が眠っている病室に駆け込んだ。
浅いがまだ息はしていて、天元はホッとした。
手を握り名前を呼ぶと、彼女は反応した。
「天……元…………?」
「あぁそうだ。俺だよ」
「……ごめん………もう目も……何も見えないから………」
「いーんだよ。気にすんな」
「ありがとう……」
「……いつもの口調はどうした?
強がるのはもうやめか?」
「……ははっ………強がっても……もう遅いだろ…?」
「……………俺の前じゃ強がりたくねぇって、顔に出てるぞ」
冗談っぽくそう言うと、は軽く笑った。
「……前は………"死"なんて……怖くないって思ってたけど……今は………何でだろうな……。"生きたい"って……思っちゃうんだよな………」
「そうだよ。お前は生きるんだよ。
生きてまた海行こうな。今度は蕎麦じゃねぇ。
なぁ知ってるか?西洋の菓子なんだが、冷たい菓子があるみてぇだぞ。冷たくて甘い菓子が。
それを食いに行こう」
「………それは…………楽しみだ…な………」
「だろ?行けなくても俺の嫁たちに頼んで作ってもらえばいい」
「………天元、もし……生まれ変わったら………」
「……ん?」
「……今度はちゃんと………嫁に貰ってくれる……?」
「何言ってんだ。当たり前だろうが。
お前はこの俺様の嫁だから。それは今も次も変わんねぇよ」
「…………ありがとう………」
そのまま何も喋らなくなった。
軽い寝息が聞こえ、眠ったと感じた。
しかし1週間経った頃、彼女は亡くなった。
彼女が亡くなるその瞬間まで天元は手を握っていた。
何日起きなくても、いつか起きることを信じていた。