第1章 辞めさせるために[☆不死川実弥]
顎を掴んでいた手を離し、今度は胸倉を掴み、
彼女の上半身を起こさせた。
「可哀想なちゃんよォ。
悲劇のヒロインぶってんじゃねぇよ。
昔からそうだよなお前は。
自分がそうだと思い込んだのは全部そう。
泣き虫で、すぐウジウジして。
かと思ったら調子乗ってなんでも出来るって思い込みやがって
そういうところが俺は昔から大っ嫌いなんだよォ!」
彼の腕を掴む手が微かに震え、
彼が顔を上げた。
「ンだよ、何泣いてやがる。
テメェが望んだことなんだろ」
「…………い」
「あ?」
「嫌い……!実弥なんて大っ嫌い……!
もう離してよ!一緒になんていたくない!!」
「……何でだろうなァ」
彼は前髪を上にかきあげ、笑った。
「全部嘘だって分かっちまう。
だからこそ本心が聞きてぇんだよ。
なぁ、俺の事本当に嫌いか?」
彼は彼女を抱き締めながら聞いた。
彼女は首を横に振り、小さな声で言った。
「どれだけ心配したと思ってるの……?
死んだかと思った。もう会えないかと思った。
やっと会えたのに。何で冷たくしたの。
昔みたいに優しくしてよ。
またあの時みたいに話したい。
なのに……………
嫌いになれるわけないよ………」
「………俺が冷たくすれば、お前は鬼殺隊を辞めると思ってた。
どこかで幸せに暮らして欲しかった。
もう誰も、死なせたくなかったから」
「……自分勝手だよ…………」
「………あァ」
抱き締めていた体を剥がし、
流れ落ち続ける彼女の涙を、彼は親指で掬った。
「もう泣くな。
さっき言ったのは嘘だから。
俺はお前のことが好きなんだよ。昔からずっと。
よく笑って、泣き虫で、すぐ調子乗って。
でもそんな所が可愛くて仕方なかった。
好きだ」
彼はそう言い、口付けをした。
この間とは違う、優しい口付けだった。