第8章 ほくろ[✩宇髄天元]
倒れたと聞いた相手が今俺の屋敷の前に立っている。
蝶屋敷で入院してるんじゃなかったのか……?!
「人を化け物でも見たかのような目で見るのをやめろ」
「いや……アンタ倒れたって……」
「ただの貧血だ」
嘘だってことはわかった。
顔色だっていつもより悪い。
なのに何で嘘までついてここに居るか分からなかった。
「……お前が鴉で誘ってきたんだろ」
「あぁそうか。じゃあ入れ」
「邪魔する」
今は夏だ。
腕を摩るほど寒くない。
何となくあいつが柱になっていない理由が分かった気がするが、それはただの勘でしかない。
でも俺の耳が聞き逃さなかった。
「キャー!可愛いい!!綺麗!!えー!!」
「うるっさい須磨!!」
「まぁまぁ二人とも、さ、どうぞ中へ」
「どうも」
あいつが中へ入り、俺も続けて中に入った。
縁側に座ったあいつは、寄りかかるように柱に背を付けていた。
「ここに来るのはいつだって来れるはずだろ?」
「……そのいつかが来ないかもしれないだろ」
「まぁな」
こいつこんなに痩せてたか?
胡蝶より細い気がするが、本人に聞いたところで殴られるか叩かれるか交わされるかのどれかだろう。
「はーいお待たせしました!」
「ありがとう」
「ありがとうな須磨」
「いいえ〜!ごゆっくり!」
須磨がお茶と菓子を持って来た。
はお茶を手に取り、ゆっくり口に含んだ。
「……さっきから人を散策するような目で見てるけど、なんだ?」
「………いや」
「……お前は耳がいいそうだな」
「まあ人並み以上には?」
「手を貸せ」
「手?…………!!!??」
手を貸せと言われたから、手を差し出した。
そしたらこの女、その手を自分の胸に当てやがった。
いくら嫁持ちとはいえ、俺だって男だ。
しかしその思考を消すように、俺の耳に流れ込んできた音。
の方を見ると、困ったように笑っていた。
「知りたかった答えには辿り着けたか?」
「……なんとなくは察しはしていたが、アンタ……後どのくらいだ?」
その質問には答えなかった。
ただ黙ってお茶を飲んで、出された菓子を食べていた。