第6章 霞と微風[☆時透無一郎]
「大丈夫ですか?」
「うん」
彼女は蝶屋敷で入院している無一郎のお見舞いに行った。
なんだか雰囲気が違う無一郎を見て、何かあったのかと思った。
「どう?、僕がいない間寂しくなかった?」
「え?はい別に……」
「ふーん、明日には退院できるから迎え来てね」
「え?はい」
何か口調も変わってると思ったが、詳しく聞くのは退院してからにしようと決めた。
次の日、迎えに行くと無一郎が蝶屋敷前で待っていた。
まだ本調子ではないらしい。
「じゃ、行こっか」
「あ、はい」
道中、無一郎はの手を握った。
え、なんで?って思いながらも、彼女も握り返した。
邸に着くと、無一郎は部屋の真ん中で寝転がった。
「そんなところで寝ると風邪引きますよ」
「ねぇ、こっち来てよ」
「もー……」
無一郎の近くに行き、正座をした。
無一郎は暫くを見つめていたが、彼女の腕を引っ張り、無一郎の顔の近くまで、彼女の顔を寄せた。
彼女の髪の毛が無一郎の顔の横に垂れた。
「…なんですか?」
「僕、全部思い出したんだよ」
「………記憶をですか?」
「うん」
「そうですか。良かったですね」
「ねぇ、僕ら1回会ったことあるよね」
言っていいものなのか。言ってしまったら、この関係は終わるのではないか。
彼女はそう思い、何も言わなかった。
「柿の木の下で会ったよね」
「……」
「」
「……うん」
「約束、守れなくてごめんね」
「……うん」
「好きだよ」
無一郎は彼女の後頭部を手で押え、唇を合わせた。