第1章 辞めさせるために[☆不死川実弥]
揺れてる感覚がし、彼女は薄らと目を開ける。
「……?!」
彼が自分自身を横抱きにして歩いていたのだった。
状況が理解できない彼女は、取り敢えず寝たフリをしようとした。
が、
「起きたんなら降りやがれ」
彼の言葉で彼女は再び目を開けた。
「…………そっちが勝手に抱き上げたんでしょ」
「………………」
「………無視かよ」
彼の態度を見る限り、あの時術を掛けられていたのだと発覚した。
柱として情けない。
彼女はそう思った。
「俺ァ鼓膜破ったからよォ、テメェの声なんざ何にも聞こえやしねェ。
このまま蝶屋敷に行くぞ」
「……なら降ろせよ」
「他の奴らは帰らせたァ」
聞いてないし。
彼女はそう思い、このまま降ろしてくれないならば
いっそ寝てしまおうかと思い、再び眠りについた。
次に目を覚ました時、自分の邸では無い天井が見えた。
(…どこここ)
とりあえず起きるか。
そう思い起き上がり、閉まっていた襖に手をかけようとした。
しかし、誰かの手が彼女の手を掴んだ。
「どこ行く」
「…………なんでいんの」
「俺の邸だからなァ」
「……………」
聞いたことに答えているということは、
鼓膜は無事だったのか。
彼女は溜息をつき、手を払った。
「寝すぎたのは謝る。邸を貸してくれたのも感謝する。
もう二度とここへ来ることはないから。
さよなら」
冷たくそう言い放つと、彼は彼女の胸倉を掴み、
襖に強く背中を打ち付けた。
「コホッ……なに………」
「訂正しろよ」
「は…?」
「"嫌い"って言ったこと、訂正しやがれ」
この男は何を言っているのだろうか。
自分も嫌いなくせに。人に言われると嫌なのか。
そんなの…
「自分勝手すぎる………」
「あ?」
「散々冷たくしといて、いざ嫌いって言われると嫌なんだ。
自分勝手だね君。でもごめんね、訂正するつもりはない。
君を嫌いになったのは私のせいじゃない。
君が嫌いにさせたんだから。それで怒るのは違うんじゃない、」
嫌いだよ、君のことなんて。
だから離してよ。もうここにはいたくないんだから