第6章 霞と微風[☆時透無一郎]
〜3年前〜
13歳の彼女は、山で山菜を取っていた。山菜を取り終わり、柿の木の下で休んでいると、上から柿が頭の上に落ちてきた。
取れてしまったのだろうかと思い、上を見上げると人の足が見えた。驚いた彼女は、その足が本当に人の足かどうか確認するために、指でそっと触った。
「わっ!」
その声と同時に、人が木から降ってきた。
「いてて……」
「ご、ごめんね?!大丈夫?怪我してない?」
「あ、うん…落ち葉があったから大丈夫……」
彼女は少年の頭の上に乗っている枯葉を払い、彼と共に落ちた柿を拾い集めた。
「僕の方こそごめん。柿、頭の上に落ちちゃったよね」
「あ、この柿君の?ううん大丈夫だよ」
「お詫びに1個あげるね。僕、無一郎っていうんだ。君は?」
「だよ。ありがとう。柿貰うね」
無一郎と彼女は握手をし、柿の木の下で一緒に休んだ。
その間、無一郎は自分のことを話していた。
双子の兄がいること、両親のことなどを。
彼女はそれを聴きながら頷き、たまに泣きそうになっている無一郎の頭を撫でたりしていた。
「は?この辺の子じゃないよね?」
「引っ越してきたんだ。お父さん、お酒ばっか呑んでて、酔うと叩いてくるからお母さんと一緒に逃げてきたの。空き家があったからそこに住まわせてもらってるんだ」
「そうなんだ…。じゃあ明日も会える?」
「会えるよ」
「もしが良かったら会いたいな……」
「いいよ。じゃあ明日もこの柿の木の下で会おう」
そう約束したその夜、彼女は楽しみで寝れなかった。友達ができたことを母に話すと、母は嬉しそうに聞いてくれていた。
しかし次の日、約束の場所に来ても無一郎は来なかった。
辺りが暗くなるまで待ったが、彼が来ることは無かった。