第5章 素直じゃない[○我妻善逸]
「バカっ!デケェ声出すんじゃねぇ!!」
「口抑えろって!」
「いってぇ!噛みやがった!」
善逸……!助けて善逸…!!
強く目を瞑った。かが、何も来ず、代わりに男のうめき声が聞こえた。
「……善逸………」
「…………おい、いつまで触ってんだよ」
「ヒッ……!」
「今なら通報しないでやる。言葉の意味が分かったんなら手を離せ」
聞いた事のない低い声に私は肩を震わせた。
男は私から手を離し、逃げていった。
「あ、あの………善逸………」
「……………」
善逸は無言で私の手を握り、早足で歩き始めた。
追い付くのが精一杯で、話しかける余裕なんて無かった。
着いたのは善逸の家だった。
靴は何も無く、お爺さんとお兄さんは出掛けいるのだと分かった。
善逸の部屋に連れて行かれ、ベッドに押し倒された。
違う。いつもの善逸じゃない。
「善……逸…?」
「何で避けたの」
「え……」
「メッセージ送っても簡易的なやつしか返って来ないわ、家に行っても居留守使うわ。その上一緒にも帰らない。
今日もバイトだから迎えに行こうとしたら変な奴らに足止めくらって。かと思ったら助けてって……」
善逸は私を抱き締めた。
「どれだけ心配したと思ってるんだよ……!」
「………ごめん」
「は知らないだろうけど、あの女子生徒停学食らってるんだよ。クラスの子が教えてくれた。停学で……あの性格だからそのまま退学すると思う」
「……そう」
善逸は私の頬に手を当て、親指で目元を摩った。
「じいちゃんたち……今日帰ってこない」
「……………」
「泊まる?」
「……どっちでも」
「素直じゃないね。そんなも好きだけど」
善逸の顔が近付いてきて、何をされるか分かった。
強く目を瞑り、それを受け入れようとした。