第5章 素直じゃない[○我妻善逸]
「ねぇねぇちゃんってさ、
我妻くんと付き合ってるの?」
クラスメイトの女子が、本を読んでいる彼女にそう聞いてきた。
「……付き合ってないけど…」
「本当に?手とか繋いで帰ってるのに?」
「うん……」
「なら良かった!」
笑顔でそう言い、去っていったクラスメイトの後ろ姿を見た彼女は、心臓が締め付けられる感覚がした。
女子生徒の言っていることが分からないほど彼女は鈍くなかった。
あの女子生徒は、善逸の事が好きなのだと察した。
放課後、いつものように彼は来たが、善逸が彼女に話しかける前に、女子生徒が話し掛けた。
善逸も話したが、鼻の下は伸びてなく、様子を伺うように彼女の方をチラチラと見た。
「先帰ってる」
「あ、待って!!」
「いいんじゃないの?先に帰るって言ってるんだから。それよりさ………」
慌てて追い掛けようとしたが、女子生徒がそれを阻止するかのように話を続けた。
(馬鹿みたい……)
泣きそうになりながら彼女は家に帰り、バイトの支度をして家を出た。
「あ、いた」
バイトも終わり帰ろうと裏口から出た時、聞きなれた声が聞こえた。
「ごめんね放課後。なかなか話が終わらなくてさ」
「……いいよ別に」
たぶん、いや向こうはわざとだから。
その言葉が出かけたが、彼女は口を閉じた。
いつものように手を繋いだが、もしあの女子生徒に見られたら面倒なことになると思い、途中で手を離した。
「?」
「……手、火傷したから」
「え、どこ?!大丈夫!?」
「痛いから、あんま触らないで」
「嘘ならもう少し上手く着けよな」
やれやれと言わんばかりの態度をとり、彼女の手を再び繋いだ。
あぁこれ、見られてたら明日確実に何か言われる。
そう思った彼女は、小さく溜息を着いた。