第5章 素直じゃない[○我妻善逸]
「ー、一緒に帰ろー」
「……嫌だ」
「うんうん、ほら帰るよ」
善逸は彼女の手を繋いで教室を出た。
彼女は嫌がること無く、その手を握り返した。
彼女は素直になれない。
こうして彼が一緒に帰ろうと誘っても、
嫌だと言ってしまう。
「それで獪岳の奴酷いんだよ!こたつで寝っ転がってたら踏んずけてきたんだよ!?有り得なくない!?」
「見えなかったんだよ」
「こんな派手な髪色なのにぃ!?」
他愛のない話をしながら2人は帰路に着く。
その時も手を繋いでいて、傍から見れば恋人同士だった。
だが2人は付き合っていない。
善逸は彼女のことが好きだし、彼女も善逸のことが好きだが、
善逸は彼女が素直になるのを待っていた。
「いつバイトだっけ」
「今日と明日」
「じゃあ帰り迎えに行くね」
「別にいい……」
「本当は嬉しいくせに……いだぁ!?」
善逸の脇腹を殴り、照れを隠していた。
「ちゃーん、上がっていいよー」
「はーい」
制服から私服に着替え、彼女はバイト先を出た。
「お疲れ様」
「……うん」
「帰ろうか」
いつもと同じように手を繋いで帰る。
彼女はこの時間が好きだった。
「今日はどうだった?」
「別に…いつもと変わらないよ」
「キモイやついたら言えよ?俺がぶん殴るからさ!」
「弱いくせに……」
「ひどっ!!」
彼女のバイト先は、カフェ屋だった。
普通のカフェではなく、和風カフェ。
制服は袴で、靴は編み込みブーツだ。
「…今度新作出るけど……食べに来る?」
「行く!!」
「うるさ」
素直になれない彼女は、今日もいつもと変わらない日を過ごしていく。