第2章 蝶を夢む
地上に上がって直ぐに紬の腕を引っ張る手が1つーーー
「!」
「何処に行く心算だァ?」
探偵社の送迎係を全うした中原中也だった。
「私が此処にいても出来ることなんて無いからね。帰るよ、勿論」
「そうかよ。なら乗れ」
「気が利くねえ、中也。でも首領はいいのかい?」
「首領専用の車は指示通り別のところに付けてある」
「ああ、そう。知ってたけど」
「手前ェッ!」
からかうだけからかって、中也の車に乗り込んだ紬。
「……。」
助手席に座るとシートを倒し、腕を組んでウーン、と唸りだす。
「……調子は良いかよ、ソレ」
その様子については何も云わず、紬の右耳に嵌まっている小さな機械をチラリと見ながら話しかける中也。
「うん?まあ。相手も正解だったようだね」
「眼鏡が谷崎ッて男を指名していたからソイツに仕込ませるかと思いきや女医とはな」
「あの人数、メンバー構成で指揮を執るとすれば最年長の与謝野女医だろうからね」
「成る程な」
先程の送迎時に、紬の指示で仕込んだ盗聴器から発せられる音を拾いながら、中也と会話する紬。
「そして探偵社は『首領の計画通り』指示に従わずに出ていったようだよ」
「……。」
その言葉に、中也は一瞬ピクリと眉を動かしたが、何も云わなかった。
「情報もあると思っていたけども『死の天使』とはねぇ。ーーー合点がいったよ」
「『死の天使』?何だそりゃあ」
「……。」
急に黙り込んで、答えない紬をチラリと見て、中也も運転に集中するのであった。
道中で見知った連中を数回見る。
ソレは明らかに劣勢と判る程であった。
「なあ、おい。体制が乱れてンぞ」
「………。」
紬は無言で目を閉じる。
その意味を正しく理解した中也は、それ以上、何も云うことはなかった。