第5章 答え合わせ
坂口安吾は、探偵社二名と協力者一名に指示をだし、その背中を見送った路地にいた。
プルルルル……
「……。」
非通知着信ーーーー
周りには誰も居ない路地裏。
『このタイミング』での着信に緊張しつつ、安吾は通話ボタンを押した。
「はい」
『やぁ、安吾。息災かい?』
「!」
思いがけない人物からの電話。
しかし、冷静に考えて『彼』は今、獄中だ。
と、なると答えは1つに絞られる。
「一体どのようにしてこの端末…否、愚問でしたね」
『そうだねぇ。この世の事は調べれば大概は判るものだ』
ふふふ、と笑う声が。否、声のトーンが変わった。
『時間もないから単刀直入に聞こう。治は今、何処だい?』
「……欧州の異能刑務所『ムルソー』に収監されています」
一瞬の躊躇いがあったものの、安吾は太宰の居場所を電話の主、太宰紬に教える。
『ふぅん。その感じだと君も一枚噛んでるのか』
「!…聞かされてないんです?」
返答に疑問が生じ、冷や汗が頬を伝う。
『ああ。とっくに別行動でね。でも、安心し給え。別に邪魔する気など毛頭にない。しかし、立場上、知っておかなければならないことが多くてね』
「立場?貴女は今一体ーー」
『うふふ。ところで、君の後釜の話なんだけど』
「『立原君』の事ですか?最近判ったことですが彼については未知数なので今の接触は危険です」
『……そうかい。矢張り、軍警側の思考で行動しているということか』
「彼は《猟犬》でした。探偵社を追いにかかるでしょう」
『ふむ。まあ、どう出てくるかは今から考えるとして。君も周りには気を付け給えよ』
「貴女が力になってくれれば助かるのですが」
『見えない範囲で手伝いはしよう』
「有難うございます」
安吾がそう云うと、通話は切れた。
そして少し思案するーーー
別人が彼女ーー紬さんの成り済まし、はあり得ない。
最初に彼女は「太宰治」の声で電話を寄越した来た。
その芸当はあの双子だから出来るもの。しかし、彼女は『別行動』と云った。その辺りの話は、太宰君から聞いていない。真逆っ…!
会話を振り返り、話してはいけない内容があったのではないかと思料するも、頭を横に振る安吾。
あの人達の思考を読むなど無理な話だーー
そう結論をだし、安吾は歩きだしたのだった。