第2章 蝶を夢む
「探偵社復活の糸口ですって」
「うん。これで希望がーー」
「……………………妙だね」
谷崎と賢治が喜ぶなか、険しい顔をして森が呟く。
「妙……?」
「ああ。如何やって奴はこの秘密の隠れ家を発見した?」
「?そりゃきっと例の《神の目》とやらで……」
「そこだよ」
森は指を立てて説明を始める。
「この隠れ家が判ったのなら探偵社などより軍警と取引すべきだろう。弱った探偵社より強大な《猟犬》に恩を売った方が利益が大きい」
つい先ほどまで喜んでいた谷崎達の表情が曇る。
「私の知るフィッツジェラルドは強い側 勝ちそうな側に味方する男だ。この取引ーー罠じゃないかね?」
「「「…。」」」
黙り混む三人。
暫くの沈黙が続き、森と広津はその場から離席したのだった。
その通路にて
「広津さん黒蜥蜴全員に伝令を」
「何なりと」
「誰にも探偵社を傷つけさせるな 命に代えても守り給えーーとね」
「拝命いたします」
そう言うと広津は直ぐにその場を去っていった。
そうした自身の背後に向かって声を掛ける。
「紬君は彼らに会っていかなくてよいのかい」
「折角の森さんの手筈を壊しても善いなら会ってきますけど?」
「あはは。それは勘弁して欲しいねえ」
スッと現れた紬は少し何かを考えているようであった。
「因みに紬君は、どう思う」
「組合の取引ですか?それともこれからの戦況?」
「取り敢えず取引のこと」
「……同じく合理的ではない、罠を疑いましたけどね」
「と言うことは罠ではないと」
「恐らく。私達に不足している『感情論』とか云うやつですよ森さん」
「ははは。それは難しいねぇーーーで?」
「後者の方は今はなんともーーーただ」
「何か懸念事項があるようだね」
森の言葉に小さく頷く紬。
そして続けた。
「だからこそ、この取引が巧く行かなかった場合、我々ポートマフィアの中に間諜がいる可能性が高い」
「………まあ、そうなるよねぇ」
紬の考えに森も行き着いていたのだろう。
困ったように息を吐いた。
「紬君。」
「面倒です」
「そう云わずに、ね」
紬は溜め息をついて森と別方向に歩きだしたのだった。