第2章 蝶を夢む
その言葉に納得がいかないのであろう。キッと森を睨み付ける与謝野。
「逃げて!その次は!?」
「次?次などないよ。潜伏地で君達は静かに暮らす」
ガッ!
ついに耐えきれなくなったのか森の胸ぐらを掴む与謝野。さすがに拙いと思ったのか、慌てて谷崎が立ち上がった。
少しの睨み合いの末、与謝野は直ぐに手を離した。
「……思った通りだ。アンタには探偵社を救う気なんて毛頭ない」
「何?」
「探偵社を救う条件は『社員 誰か一人の移籍』?嗤わせる。アンタの狙いはこの妾を手に入れることだけだろ!!」
「「!?」」
その言葉に谷崎と賢治も驚く。
「……そうだが、それが何か?」
森はさも何でもないかのように続ける。
「だがね 与謝野君。福沢殿はその事も承知だ取引した。君に抗う権利など無いのだよ」
「社長がそんな事云う筈ない」
「……」
そう断言した与謝野に一瞬黙る森。
「いいや 『福沢殿は君を指名しても善い』と云った」
「!」
その言葉に絶望の色を顔に浮かべる与謝野。
「首領お取り込み中に失礼します。入り口にこの無線機が……」
とても善いタイミングで広津が不審な無線機を届けにやってきた。
『よう元気か親友?』
それと同時に声がする。その声の主はーーー
「!その声、フィッツジェラルド!?」
谷崎が一番に反応する。
『久しぶりだな。窮状を笑ってやりたい所だが時間がないので手短に話す。虎人の少年をそちらに向かわせた』
「虎人……!敦くんだ!生きてたンだ!」
喜ぶ谷崎と賢治。
「……少年が此処に来る理由は?」
冷静に話を続けるのは首領。
「取引だ 俺の為に治癒異能を使え 対価に探偵社復活の糸口となる情報をやる。集合場所は二十分後五番通りで……ではな」
「待て お前は何故この隠れ家の場所を知ってーー」
プツーーーー
伝えることを伝え終わった無線はそこから何の音も発さなかった。