第2章 蝶を夢む
首領の命によりマフィアの隠れ家に案内された谷崎、与謝野、宮沢の三名は各々椅子に座って項垂れていた。
「如何かねマフィアの隠れ家の住み心地は?」
現れたのはポートマフィア首領、森鴎外ーーー
「楽園の住み心地……とはいかないが一週間程度なら《猟犬》の目から隠れられる筈だよ」
「森医師。自爆して堕ちた国木田の安否は判らんのかい」
「残念乍ら」
その言葉に落ち込む三人。
「判ったのは太宰君の顛末くらいだが……」
注目が首領に集まる。
「太宰君は人質事件より前に《猟犬》に逮捕されていた。薬で眠らされて身柄を軍警から法務省 更に公安へと移されその先は杳として知れず だ。マフィアの情報網も届かぬ深部……相当善くない場所へ送られたのだろう」
「そうかい……」
与謝野が反応すると、谷崎が「あの……」と口を開いた。
「何かね」
「同ンじ太宰でも妹のーーー紬さんの行方は知りませンか」
「「!」」
そう言えば、無事だろうか。
その思いをこめてか、一斉に森の方に注目が集まる。
「ああ、紬君ね。一緒には来たけど何処に行ったかな」
「!無事なンですね!?」
「勿論無事だとも。今日も今日とて私達ポートマフィアのために精を尽くしてーーーはくれてないけどいつも通り働いてくれているとも」
「……は?」
「………どういう意味だい、それは」
その答えに、谷崎と与謝野の顔が険しくなる。
「紬君は元よりポートマフィアの人間だよ?ちょっと太宰君に会いに其方に出向いてただけの、ね」
「「「!」」」
何を云われているのか頭の理解が追い付いていない三人。そんな三人の姿を見て息を吐いた森は「そろそろ本題に入ろうか」と話を切り替えた。
「このまま此処に留まるわけにはいかないからね。そこで此れからは全員バラバラに逃げてもらう」
「「!」」
森の言葉に驚く谷崎と賢治。そしてーー
「巫山戯ンじゃないよ!」
ガタッ
椅子を倒すほど勢いよく立ち上がって抗議の声をあげた与謝野。
それでも冷静な森は静かなトーンで続けた。
「……巫山戯てなどいないよ。探偵社員はバラバラに逃げてもらう。既に経路も手配済みだ。」