第4章 理由
「そんなこたァ判ってる!ソレがどう繋がンだよ」
「治の離反に際して一番の問題は何だったか、それは私の存在だよ、中也」
「!」
確かに、とは思う。
太宰のポートマフィアと云う組織に、首領に対する忠誠心もへったくれもない事は昔から知っていた。
離反した、と聞いてもその点に関して云えば然して驚きも無かった。
紬に対してはそれ以上だ。
『兄と共に行動するーーー』
そこに、紬本人の意志は、無い。
「それだよ」
「何れだよ」
紬は少し呆れ気味に話を続けた。
「私は何も治の操り人形ではないのだよ?意思も感情もきちんとある」
「……つまり、手前は離反したく無かった、と?」
「いや、正直云えばそこはどうでも良かった。どうでも良いけれど、私は表向きの人間ではない事は中也も重々承知だろう?」
「………、まぁ…」
「でも治の意志は変わらなかった。だから一緒に離反する『振り』をしただけだ」
「経歴もさっぱり消してまでか?」
「表の経歴が消えても、こちら側の記録は消されてない。けれど、森さんはつい最近云ってなかったかい??『一部の記録を廃棄した』的なこと」
「!」
心当たりはあった。
それは紬が戻ってきて直ぐに拐かされた時の事ーーー
『今朝から資料室に保管していた資料を少しばかり廃棄させているんだよ』
そういった会話を首領とした記憶が脳裏に浮かぶ中也。
「廃棄したのは恐らく、目眩まし用に制作されていた『私の逃亡幇助の記録』だ」
「逃亡、幇助……?」
益々判らない。
首領が云っていたのはてっきり「兄と共に離反した」と云う記録だと思っていたからだ。
「正しくそれに繋がるだろう?太宰治の資料を読めば離反した、妹のを読まずと『兄と共に』と勝手に思い込む」
「!?」
「恐らく、物好きな誰かが読んでもいいように作られた、離反はしたなくても罰を受けていると思わせるに充分な『逃亡幇助』の記録。それが無くなったとしたら『私の所属は何処にあるままか』」
「………凡ては首領の手の内ってことか」
紬は再び苦笑した。