第4章 理由
凡ての指示が終わった中也は、自身の執務室へと戻ることにした。
紬を首領の部屋に置いてきたことは頭にあったが、躊躇うことなく部屋に戻ってきた理由ーーー
ガチャリ、と音を立てて開けた扉の先には、
「おかえり。早かったねえ」
勝手に中也の執務室備え付けのソファにて寛いでる紬の姿があった。
その姿を見て矢張り此処に居たと云う勘が当たったことに対する呆れか、はたまた安堵か。
はあ、と小さく息を吐くと中也は扉を閉めた。
「……考え事か?」
「まあ、そんなとこ」
だらーんと力を抜いて横臥する姿勢を昔と重ね、紬に問う。正解のようだ。
「聞きてェ事あンだけど」
「なぁに?」
「!」
予想できなかったのは、考え事を一旦置いたのか、同時進行かは判らないが、中也の質問に答える気でいることだった。その驚きが顔に出ていたのだろう。紬は反対に、キョトンとさた顔をする。
「どうしたの?」
「否……で、何だ手前は戻ってきやがった?彼奴に対する『嫌がらせ』が目的じゃあねェだろ?」
「あーー…………」
真逆の質問だったのか。紬が少し考えこむ。
中也は、紬が再び口を開くまで黙ったまま、執務室の席に着席する以外の事はせず、只、次の言葉を待つ。
「中也は……、否、本当は治も知らないけれど」
「ああ」
漸く待っていた言葉に、中也は耳を傾ける。
「そもそも私は『ポートマフィアを抜けたりしていなかった』、のだよ」
「ああ……は?はァあ!?」
中也は驚きの声をあげた。
「否、手前は彼奴と同時に行方をくらませてッ……!?」
「でもつい最近まで一緒に居ることは無かった。私がこの地に現れたのは敦君が現れるほんの少し前。治にも見つからないように、ポートマフィアのフロント企業を1ヶ所に留まることなく目立たない範囲で転々としながら、生活をしていた。それはーーー」
「…首領も承知していた、ということか」
紬が肯定の意を示すように一度頷く。
「だが、お前の経歴は正しく消えていた。この混乱でまた明るみになったとしても、だ。どう云うことだよ」
その言葉に紬は苦笑した。
そして、そんなの分かりきったことだと前置きして
「治は私に甘いから」
そう答えたのだった。