第5章 時田カオル目線
救急箱を奪われ、俺は慌てて逃げた豚を追いかけた。
やはり人間の足ではMOBに追いつかないか……と豚の姿を見失って森の中を彷徨っていると、一つの声が聞こえた。
「ぼんじゅーる、ぼんじゅうるだ! どーもです!」
俺はその声に聞き覚えがあった。まさか、と声を辿ると、ずっと後悔していたあの姿が見えて立ち止まる。
紫の髪をした人の姿をしたその頭に、紫のキノコがある生き物。
あの研究所で見かけたMOBの一人だった。火事から逃れて何とかここで生き延びていたのか、と安心するのも束の間、彼は誰かと喋っていた。
視線をズラすと、そこにいたのは救急箱を盗んだ豚と、ちょっと緑っぽいニワトリに牛。なんとも風変わりな三匹の組み合わせだが、紫のキノコ人が彼らにどこかへ案内すると話し、森の奥へと進んで行った。
俺は、彼らを追いかけなかった。MOBは俺たち人間と一緒にいない方がいいのだ。彼らは散々傷ついたのだし。救急箱は……新しく買って揃えるとしよう。俺はまた、傷ついたMOBを助けるだけだ。
俺は来た道を引き返した。町が近いとはいえここはなんの目印もない森の中なので少し迷子になりながら歩いていると、珍しい。女性が向かいからやって来た。