第1章 1
2時間にも及んだライブが全て終わった。
まだ興奮が冷めない会場の外、私は泣き腫らした目に冷たいドリンクを当てて、ザワザワと立っている気を落ち着かせていた。
と。
バッグに入れていたケータイが、音と振動で着信を告げる。
──画面を見ると、知らない番号。
知らない番号なんて普段は出ないけれど、今日はなぜか出なくては、と感じて受話ボタンを押した。
「もしも「アホか!!なんっっで来とんねん!!」
受話口から聞こえてきたのは、怒鳴り声。
「か、和之…?」
「あー!!そうや!!和之様や!!」
怒った様子で彼が喋る。
…耳が痛い…。
「お前…!!なんっでここに…っ!!どうやって……っ!!………っだー!!!!」
和之が叫ぶ。
私は思わずケータイを耳から離した。
「和之…声、大きい…」
「うっさい!!良いか!?今から言う場所に、今すぐ行け!!」
「え、な、ちょっ…」
狼狽える私には構わず、和之はライブ会場近くのホテル名を言うと、一方的に電話を切った。
和之に電話を切られた後、仕方なく私は言われた通りにホテルへと向かった。
有名人が使うであろう裏口と、正面の入り口を往復すること数回。
「陽葵さん?」
裏口の前で声をかけられた。
振り向くと、そこには男の人が2人、立っていた。
「え…?あの…」
少々身構えて後ずさると、どちらかというと優しそうな方の男の人が苦笑いをした。
「あー、大丈夫、捕って食わないから」
それでも私はまだ、身構えたままで。
それを見て彼はやれやれ、と息を吐いた。