第1章 1
私の声が耳に届いたのだろうか、彼は驚きながら何かを探すように目を泳がせる。
そして。
「!!」
──私は、彼に見つかった。
曲はちょうどギターソロに入り、彼はベースを弾く手を止めて私の前へとやって来た。
私の周辺からは黄色い声が上がる。
彼に向かって伸びる手を避け、彼は一番最初に私の手を握り、フッと不敵に笑った。
それから他の手に応えると、所定の位置に戻ってまたベースを奏で始めた。
「届いた……」
涙が頬を伝う。
彼の演奏も耳に入らず、私は顔を覆って泣きじゃくった。
周りにはきっと、熱狂的なファンが、敬愛するアーティストと握手出来て嬉し泣きをしている、と思われているに違いない。
でも私は、それ以上に嬉しかった──。
《ごめんね。》
その言葉に、彼は答えてくれたと感じた。
無言で、《気にしてへん。》って。
──私は、まだ、あなたの彼女でいられてる?