第1章 第一章 別れと出逢い
「下手に動かないでください、
彼女を連れて来たのは私ですので。
学園長とも話してあります」
利吉はそう言うと、殺気を隠さぬまま消えた。
…
「あのー……」
椿は集中していてこの男の声など届いていない。
机に向かって胡座をかき、先程半助から貰った忍装束をアレンジ中だった。
「……神楽、さん」
食満留三郎は、椿の手元を覗き込む。
『わ……?!』
突然目の前に男の顔が現れたものだから、椿は仰天。
胡座をかいていた足は絡まり、腰が抜け畳に背中を打った。
「っと、」
と思ったが、留三郎がしっかり受け止めてくれた。
『ありがとうございます』
しかし腰が抜けたことには代わりない。留三郎の腕の中で動けずに居た。
「驚かせてしまってすみません。
昼食をご一緒にどうかと思いまして訪ねたのですが……」
『あ、そうだったんですね!
丁度お腹が空いていたので助かります!
えーっと、お名前は……』
「六年は組、食満留三郎です」
とめさぶろうくん、と椿が反芻し頷いた。
『神楽椿です。パッと見年下かな?わたしのことは下の名前で呼んでね』
あれこれ話している間に腰は治っていた。
留三郎の腕から抜け出すと、椿は立ち上がり伸びをする。
作業時間はかれこれ2時間。ずっと針を握っていた。
完成したのは袴のような馬面裙(マミアン スカート)というもの。
巻くだけでおしゃれさんになるアイテムだ。
椿は馬面裾を巻き、留三郎の手を引いた。
『お腹ぺこぺこなので、早速連れてって〜』
「ちょっと椿さん!」
…
留三郎は椿の突然の行動に困惑しながらも何とか誘導し、食堂のに着いた。
級友の善法寺伊作は待ちくたびれていた様子だったが、椿を見るや否や、ここに座ってと彼女に声を掛ける。
混雑のピークは過ぎ去ったようで、正午開けの食堂は雑談するには丁度良いくらいの静けさだった。
『ありがとう、そっち座るね〜』
椿は下級生に食堂のルールについて教わり、食堂のおばあちゃんから昼食を受け取る。