第1章 第一章 別れと出逢い
「貴女の性格が……難あり?」
そうなんです。椿の口が豪風の中にいる風車のようにクルクル回る。
『メンヘラで恋愛依存症で尽くし尽くされ毎日愛し合いたくて片時も離れたくない激重ヤンデレ女なんです』
「は、はぁ……」
内容の一割ですら理解できているか怪しい半助は、取り敢えず椿の頭を撫でる。
椿は目を瞑り、半助のもう片方の手を握り自らの頬に擦り付ける。
ゴツゴツした筋肉質の手、豆や小さな切り傷がついた手。彼女は再度身体を震わせた。
「……椿」
30分はこうしていただろうか、半助は椿の頬に両手を添え、涙を拭う。
「いつでも胸を貸すから、辛い時は私を呼んでほしい」
『うん……』
椿は半助の腕に抱かれ、小さく縮こまった。いつかの日を思い出し、椿の顔は穏やかになっていく。
『ありがとう半助さん、なんかごめんね』
痛々しく腫れた目に思わず直視できずにいると、学園長が用意していた裁縫セットが目に入った。
「椿、裁縫道具や布、忍装束とか部屋着がここにあるから今日一日はここで過ごしなさい。
その腫れが治まった頃に、ここの生徒に昼食や夕食の用意をさせるから」
椿の頬に唇を触れさせ、半助は彼女の部屋を後にした。
半助の突然の行動に驚く椿。自身の身体を抱き締め、平静を保とうと深呼吸を数回した後、埃一つ落ちていない畳に寝転がった。
『セフレになんて、なってくれないよね……』
誰でもいい。わたしを愛してくれるのなら、それに溺れたい。
椿は静かな部屋で、部屋の一点を見つめていた。
…
「色、効きますね」
利吉は先程の様子を見ていたのか、人気の無い場所に来た半助に声を掛ける。
「効き過ぎるのもどうだか」
暴漢に襲われる彼女を助けた際、利吉は椿の表情が目に焼き付いて離れなかった。
この世を諦めた顔、どうにでもなれと口角がヒクヒクと上がる様子は、何とも痛々しかった。
「彼女の相手は私がします」
利吉は当然のように言う。無論、彼女をここへ連れて来たのは利吉だ。
「いいや、私がやるさ」
利吉は彼が向ける笑みの中の真意を読み取り、思わず胸倉を掴む。