第1章 第一章 別れと出逢い
留三郎の分は先に伊作が用意していたらしく、椿が席に着くのを待ってくれていたとのこと。
『二人ともお待たせしてごめんね。伊作くん、待っててくれてほんとありがとう〜』
留三郎から既に善法寺伊作について聞いていたため、自己紹介は不要だった。
『いい?二人とも、もし服が破れたとか補正して欲しかったらいつでも言うんだよ?椿お姉さんとの約束だからね〜』
美味しい魚料理に舌鼓を打ち、上機嫌な椿。
そういえば、と伊作は少し気になっていたことを口に出した。
「椿さんって、どうして裁縫が得意なんですか?」
もしかしたら良い所の娘なのでは。
六年生らは学園長から彼女について知らされた時、自分たちで椿を探ってみようと話したのである。
花嫁修行が家の習わしであるのはどこもそうなのだが、彼女の馬面裾の出来を見た伊作は着物屋の出ではないかと疑っていた。
「傍から見ただけでも綺麗に縫われていて技術がすごいなぁって」
裁縫技術や、無駄の無い生地の使い方。相当教え込まれないと難しい。
『こっちに来る前はね、お着物屋さんで働いてたの。それで裁縫系の雑務がわたしに回ってきて、それで上手くなっていったんだよね』
だからさ〜ハンドメイドとか超得意だよ、と椿は自信げに言う。
「では、早速お願いしたいものが……」
昼食の後、二人は授業の際に負傷し、その時空いてしまった穴を直してもらうことになった。
…
その日の夜、椿は二人の部屋に案内される。
肘の部分には何か刺さった後に、引き裂かれたような穴が空いていた。
『これが、留三郎くんので……伊作くんのは、』
背中部分的がやけに荒れている。
『な、にこれ……?』
「戦闘を混じえた授業で、首根っこを掴まれて引きずり回されて……」
『嘘でしょ、こわ』
二人の忍装束を見て、一瞬で理解した椿。持参した針と糸で早速修復作業を始める。
「おぉ」
「すごいね椿さん」
『でしょ〜、ほんとお裁縫好きなの』
そんなやり取りをしながら、あっという間に作業完了。
二人に仕上がったものを見せると、目を見開き喜んだ。集中したらやはり疲れたのか、椿は眠たい目を擦る。