第1章 第一章 別れと出逢い
「彼女、寝ましたね」
山田利吉は、彼女を学園長室へ運び込んだ張本人。
「なぁに、怪しむことは無い。こやつ、椿は迷い込んだだけじゃ」
……一先ず、二月(ふたつき)程はこちらで監視しておく。そっちも手が空いた時に調べておれ。
まぁ、何処かの城のくノ一である可能性も拭えんからな」
「はっ」
山田利吉が姿を消したのと同時に、朝日が登り始める。
…
『ここ、どこだ……』
お爺さんと犬?と話したのは何となく覚えている。布団の中を見てみると綺麗な服に着替えさせてくれていた。
取り敢えず起き上がり、この部屋からの脱出を試みる。純粋にここが何なのか気になっていた。
いつの時代で、どんな世界で、この先どうなるのか。彼女の心の中には好奇心と、鬱屈さが入り混じっている。
『よしっ、……わぷ』
襖を開け、足を踏み出した途端硬い胸板に鼻を痛めてしまった。
「あぁすみません、お怪我はないでしょうか?」
黒ずくめの服に茶髪でぷっくりした頬の好青年が、鼻を抑え俯く椿の前であわあわした様子で声を掛ける。
『大丈夫です!
確認も無しに飛び出してしまってごめんなさい。
わたし神楽 椿です。忍術学園関係者様には大変ご迷惑をお掛けして……』
「そういうのは大丈夫ですから!
私は土井半助と申します。一年生の教科を受け持っていて、学園長にあなたの案内をするよう言われまして」
案内。椿は目の前の男、土井半助に着いて学園内を回ることにした。
『25歳かぁ、そうなんですね〜』
お喋りしながら歩いていた。と、半助が年齢について口にした途端、椿の顔が影を生む。
「椿さん?どうかしました?」
椿の目から涙が溢れ出す。彼女の部屋が近かったため、半助は彼女の部屋へ誘導し、声を漏らして泣く彼女の肩を抱いた。
元恋人は半助と同じ25歳であったこと、椿の性格が起因して別れを告げられてしまったこと、背丈が似ていたため思い出してしまったことを話した。