第23章 あらぬ疑い
「失礼しやーす」
大急ぎで夕飯を作ってきた俺は、想定より三十分も早く料理を終えてドクターの執務室に戻ってきた。ちゃんと三人分の飯も持って。
するとそこにいたのはもう起きていて手足を縛られていない大将がデスクの席にいて、ソーンズさんはさっきもそこにいたよなってソファに座っていた。
そしてムースさんは、ソーンズさんのいる向かいのソファにブランケットを掛けられて眠っていた。
「ソーンズから話は聞いていたよ。わざわざありがとう」
大将が当たり前のように受け答えをする。俺がなんでわざわざ飯を持ってきたのか、深くまでは読まれていなさそうだ。
「ムースさんのも持って来たんすが、寝ちまいましたか」
「うん。どうやら私の足元で寝ていたみたいだ」
「へぇ」
話しながら飯を置く。ソーンズさんの目は明らかに俺じゃなくて飯に向いている。
「どぞ」
「どうも」
言葉短く、ソーンズさんは俺が差し出した飯をガツガツと食べ始めた。あれ、この人が普通に座って飯食ってるの初めて見た気がする。
「ムースさんの話を聞きやしたか」
俺は大将にも配膳しながら話をどこまで知っているのか聞いてみた。大将の顔も特段変わった様子もないままこくりと頷く。
「私が手足を縛られていたことを心配していたんだろう? ……ソーンズには悪い役をやらせてしまったね」
てことはやっぱり?
俺は大将からソーンズさんへ視線を移した。あ、頬に飯ついてんな。
「お前が気にするものでもないだろう」
こちらを一度も見ずにソーンズさんはそう言い、また飯を掻き込む。
「えっと、答えたくないなら言わなくていいんすが……なんで手足縛られてたんすか?」
「それはね……」
のちに俺は、大将があんなにもセクハラだとかに悩む人なのだと知ることとなった。ケルシーさん、いかにもって感じだもんな。だけど手足縛らなくったって……と思っていると、俺は大将からこんなことを言われてしまった。
「今度ジェイが秘書だった時、私がうたた寝していたら手足を縛ってくれるかい?」
「ええ……」
俺が第二のソーンズさんになるのは、また別の話だ。
おしまい