第20章 楓林と風鈴
「失礼する。今日は私がドクターの護衛をするらしいな」
「よろしく頼む、フロストリーフ」
今日の執務室にやって来たのは、常にヘッドホンをつけている少女、フロストリーフだ。
今まで生きてきた過程のせいか、年齢の割には大人びているフロストリーフ。辺りを警戒するような動きと目配せをしていて、少女というよりは傭兵だなと思わせた。
「む、これは?」
フロストリーフはその癖のせいか、執務室に来てもすぐにはソファに座らない。何を警戒しているのか壁沿いをしばらく歩く癖が彼女にはあるので、私はわざとそこにソレを置いていた。
「風鈴だよ。極東の伝統的な物らしい。音が鳴るんだ」
「音……」
そこでようやく、フロストリーフはヘッドホンを外した。冷暖房機が機能しているので、その風に揺らされて風鈴がリンリンと鳴っているのが聞こえるだろう。
「とても小さな音だ」
「そうだね。涼しい音を演出しているらしいよ」
私も風鈴の方に向かい、指でわざと何度も鳴らす。ガラスと金属がぶつかる音って、こんなにも繊細で美しいんだ、と改めて気付かされるような音だ。
「ドクター、暑いならあの風の出る機械で部屋を冷やしたらいいんじゃないか?」
とフロストリーフはもっとも合理的なことを言った。フロストリーフが指しているのは冷暖房機だ。もちろん稼働中だが、風鈴はそういう役目を持つものではない。