第19章 スズランと毒
数分経つと、スズランはカップを二つ、トレーで運んできた。小さい体の割にそれを覆うように広がる彼女の尻尾が、ふわふわと揺れている。
「お体にとってもいいハーブティーだそうです。ラナさん……えっと、パフューマーさんが教えてくれました」
「ドクダミのことは、私もパフューマーから聞いたよ」
スズランはカップをテーブルに並べ、どうぞという合図で私はドクダミティーを口にする。ほんのり苦いのがむしろ癖になる味わいで温かかった。
「それにしても、スズランもドクダミティーを飲むんだね……ってスズランっ?!」
「このハーブティー、ちょっと苦いんですね……」
ドクダミティーをここで初めて飲んだらしいスズランは、涙目になりながら俯き加減でカップを置いた。自分のせいじゃないけど、なんだか申し訳なくなってくる。
「そ、そうなんだよね。ちょっと大人な味っていうか……」
飲めなくたって平気だよ、と伝えたくてしどろもどろに私がそう言うと、スズランの耳はまだやや下がったままこちらを見上げた。
「大人な味ってことは、これが飲めるようになったら、私も大人になったことでしょうか?」
「まぁ、うーん……そうかも……?」
飲めない大人もいると思うけどな、と考えながら私は言葉にせず曖昧な返事をする。
しかしスズランは気にしない様子でニコリと笑って、分かりましたと頷いた。
「私、少しずつ飲むようにして少しずつ大人になりますね!」
純粋なスズランを前にすると、私はどうも調子が狂う。そんなことを言ったらスズランの囲い()が黙っていないから言葉にしたことはないが。
「スズランはまるでドクダミみたいな人だよ」
私にはお手上げだ。子どもの頃にはあったはずのスズランのような性格を、私はどこに置いていったのだろう。
「ドクダミみたいな人って、どういうことですか?」
まだまだ知りたいことが多いスズランは私にそう質問をした。私は説明をしてあげた。
「ドクダミは体の中にある悪い毒を追い出すハーブティーなんだよ。それが、スズランの心とよく似ていると思ってね」
「はい! 私、頑張って悪いものを追い出せるようになりますね!」
どういう解釈をしたのか分からないが、スズランはすっかり元気な声で返事をした。スズランはまだまだ成長するだろうが、今はまだ、その純粋さを忘れないで欲しいなと思う私であった。
おしまい
