第20章 楓林と風鈴
「暑いから風鈴を飾ったんじゃないよ。フロストリーフに見てもらいたくて飾ったんだ」
「私に……?」
と私の言葉に驚いたように目をわずかに見開いたフロストリーフは、年相応のような顔だった。きっと、戦争なんかなかったら、もっと柔らかく可愛い表情を知っていたんだろう。
「そう」私は頷いた。「フロストリーフって名前が、楓林から来ているのは聞いたよ。涼しげな場所を示しているような名前が、この風鈴と近い気がしてさ」
それから私は風鈴を外し、フロストリーフに差し出した。
「良かったら貰って欲しい。君のために買ったんだ」
「これは……」
フロストリーフは躊躇った様子だった。だが彼女が身につけているそのヘッドホンも、誰かからの贈り物だ。フロストリーフは知っている。誰かからか貰ったものが、いつか自分の支えになるかもしれないことを。
「分かった。部屋に飾ろう」
フロストリーフは風鈴を受け取った。ぶら下がっていた時とは違う音がフロストリーフの手中でカラカラと鳴る。やっぱり、彼女の音にとても似合うなと思った。
「あの、少しいいか?」
「なんだい?」
フロストリーフが言いづらそうにこちらを覗き込んできた。こうして身長差に気づくと、彼女はまだ若いのだろうと改めて感じる。
「一旦部屋に戻っていいか? これを持ったままじゃ、ドクターを護衛するのは難しい」
ああ、そのことか。フロストリーフって妙に真面目なんだなぁ。
「もちろん。そこまで大事に思ってくれて嬉しいよ」
「それはどっちの意味だ?」
「え?」
「……なんでもない」
フロストリーフは謎の疑問を残して執務室を出て行った。一瞬のことで私はつい聞き返してしまったが、彼女がどういうつもりでその質問をしたのかと考えるとあとから私も恥ずかしくなってきた。
「意地悪なこと言っちゃったかな……」
私は一人取り残された執務室で呟く。ちょっとぶっきらぼうだけど、ロドスを大事に思ってくれているみたいで、ちょっと嬉しくもあった。
おしまい