第18章 今日の秘書はフリント
「今日は私がお前の秘書だと聞いたんだが……本当に間違いじゃないんだろうな?」
朝。執務室の私のデスク前には、小さなリーベリが立っていた。
私は彼女を出迎えるように笑顔で答えた。
「間違いないよ、フリント」
「そうか……」
フリントは、前の交渉の時に私について行った時のことを思い出しているのだろうと思われた。あの時もフリントを秘書兼護衛として連れて行き、ちょっとしたトラブルを起こしてしまった。交渉自体はなんとかなったが、フリントは今も気にしているみたいだ。
「書類整理を手伝って欲しいなと思ってね。この印と同じ棚に仕舞って欲しいんだ」
「分かった」
私の指示をよく聞くフリントは、かなり慎重に書類を手に取った。フリントはその力の強さのせいで、時々書類を破いてしまうことがあった。まぁ思い切り破られたことはないから大したことはないんだけど、いつもあの戦場で屈強な敵すら相手にしている彼女が、こうも恐る恐る動いているのはちょっと……可愛らしかった。
「私に秘書を頼むのはいいが、別に私じゃなくてもいいんじゃないか?」
書類整理をしながらフリントはそんなことを言い出した。私も隣で別の書類を片付けていた時だ。
「秘書はね、別に仕事をしてもらうためだけに任命している訳じゃないんだよ」
と私が答えると、きょとんと目を大きく見開くフリント。そうして見ると、彼女も年相応の幼さが私の視界に映った。
それから何か考え込むように横を向いて、フリントが出した回答は、
「そうか。お前には何か意味があると思って私を秘書にしてくれたんだな」
と言った。
フリントもまだ若いし、これから先のことも、テラのことも、自分で考えながら未来へ進んで行って欲しいなと私は思った。そのためには鉱石病の完治方法を見つけないとな。今はまだ、先は霧がかかったように見えるけど。
「そうだね。いつかこの書類整理が役に立ったって思える時が来たら嬉しいよ」
私がそう言うと、フリントの顔がにぃっと笑った。その次の瞬間。
ビリッ!
「あ」
「す、すまない! つい力が入ってしまって……」
「大丈夫大丈夫。中身が読めたらいいから」
フリントの成長は、まだまだ楽しみなことが多いようである。
おしまい