第16章 ドクターはトターに夏服をプレゼントしたい
「俺の服を? そんな大したことはしていないのに。それに俺に服なんてあげたら、すぐ汚れてしまう」
「汚れたっていいんだよ。それに、この服はオペレーター用に作られているから、戦闘に着て行きやすいはずだし」
「そんな、俺なんて」
トターならそう言うと思ってた。言うと思っていたけど私は今日だけでも着て欲しい理由があった。
「頼む、トター! 今日だけ! 今日だけでいいから!」
私は膝を折って懇願した。服に皺がつかないようにちゃんとソファの背もたれに掛けてからお願いする。
「……どうして、俺に服を?」
「カッコイイからだよ?」
自分のことをカッコイイとは言わない人だけど、トターはカッコイイのだからカッコイイとちゃんと伝えたい。それに、もう一つ理由がある。
私は立ち上がり、端末を開いて航行予定表をトターに見せた。
「もうすぐある小さな島に着くのだが、そこには研究のヒントになるかもしれない植物の自生地ポイントがあるんだ。そこはほぼ常夏みたいな気候みたいだし、私の護衛がてら着て欲しくて……」
とそれっぽく説明してみせたが、後半は私の欲望である。トターに夏服を着て欲しい。ただそれだけ。
トターは悩んでいた様子だが、護衛となるならそれなりの格好をしなくては、と私が購入した服を着てくれることになった。
「ありがとう、トター」
「俺にあまり似合わないと思うが……」
「そんなことない……!」
そうでないとはたいた私の財布が報われない。