
第16章 ドクターはトターに夏服をプレゼントしたい

ロドスから出る時は、私は必ず防護服に防護マスクを身につける。
一見怪しい人間に映るが、これは私がどんな顔をしているか相手に印象づけない為であり、ありとあらゆる病気から完全に防御しなくてはいけなかったからだ。
一方、私の護衛としてついて来ているトターは貫禄がありながら、プレゼントした服と相まって騎士のようだった。本当によく似合う服だ。彼は幼い頃ジャングルのような森の中で暮らしていたと聞いているが、初めてトターが袖を通したそれから、なぜか木々の香りがしたように錯覚した程だ。
町に入った時は周りの人々が私よりトターの美しさに惚れ惚れとしている声などが聞こえたが、彼はいつも通り周りを警戒していて、
「怪しい動きをする者はいなさそうだ」
と自分の特性を存分に活かしているばかりだった。
その後、私たちは町のタクシーで目的地の近くまで乗せてもらった。歩いても行ける距離だったが、何よりトターは鉱石病で足がやや悪いので、出来るだけ歩かないように気を遣ったことだった。トターは何も言ってはこなかったが。
「この先なのか?」
しばらく静かに私について来るばかりだったトターが、一度立ち止まって口を開いたのはこの時が最初だった。私たちの目の前には深い森が広がっていたからだろう。
「危険な生物は確認されていないらしいが、護衛は引き続き頼むよ」
「分かった」
そうして獣道のようなところを進んで私たちは森へ進んだ。本来薬草を取りに行くのはそもそも私でなくても良かっただろう。トターは何も言ってこないが、内心では私の行動を不思議に思っているかもしれない。
ただ私は、過去の自分が残した手記に従っているだけ。当時の私が何を思って手記を残したかは分からない。しかしこの森の先には、研究のヒントになるかもしれない植物が咲いているということ、そして……。
「うわっ」
「大丈夫か? ドクター」
考え込み過ぎたのだろう。地面のぬかるみに気づかず私はフラついてしまった。横にいたトターにもたれかかったことで転ぶことは避けられたが。
「すまない、トター」
「大丈夫だ。怪我がなくて良かった」
私は体勢を立て直してトターを見上げる。トターは私の方を見ているようだが焦点が合わないので、あまり見えていないのだろうなと思った。
私はトターから離れて歩き始める。
「もう少しで着くはずなんだ。行こう」
「了解」
