第15章 アフロと聡明
「それは、ここに来てからかな? 私が記憶喪失になってロドスに戻ってきたあとから、ずっと」
「そうか」
私が答えると、ソーンズは何を思ったのか踵を返した。私は立ち上がった。
「ちょっと待って、どこに行くんだい?」
「お前の手書きが残っている資料を探しに行く」
「え、なんで突然?!」
ソーンズの行動は時に突発的だ。私がソーンズを追いかけようとすると、くるりとこちらを振り向いた。
「お前の落書きが、研究のヒントになるかもしれないだろ。俺とお前は分野が違うが、繋ぎ合わせることくらいは出来るはずだ」
「ま、まぁ、そうかもだけど、私には……」
「分かっている。だが、鉱石病がこのテラ中で問題なのは誰が見ても分かることだ」
「そう、だね……」
鉱石病の完治方法を見つけたい。それは、私が研究者としての記憶を失った今でも変わらない思いだ。
「だけど、ソーンズ」
「なんだ」
「髪の毛は整えてからにしよう」
そうなのだ。ソーンズの頭は依然アフロのままである。
それでもソーンズの表情はほぼ変わらず、目だけがキョロリと動いた。
「そうだったな」
「そこ座ってくれるかい」
「ああ」
ソーンズが気を許したように目を伏せる。私は彼のそんな顔が好きだ。私は雑貨入れに並ぶブラシを手に取った。
私はソーンズの髪を整えながら色んなことを考えた。ねぇ、ソーンズ。私はソーンズが考える未来を見てみたいと思ってるんだ。昼間の花火の話は聞いた。私も見てみたいな。平和になったテラ中で、見てみたいなって思うよ。
それにしても、君はいつも聡明なのに、時々アフロで現れるのはびっくりするから、それはやめて欲しいかな、なんてね。
ちなみに始末書は私が技術部に届けた。ソーンズは……多分また爆発させるんだろうけどね。
おしまい