第14章 いつメン
見るとアレーンもいつの間にか席を外していた。アレーンのことだからソーンズの後について行ったのかもしれない。私ももう一杯頂いたら野営の見回りに出よう。
「ちょっとレッド、ここで寝るのはよくないと思うぞ……」
「ん……」
フリントに寄りかかるレッドの姿が視界の端に映った。そういえば、レッドは人との距離感が近過ぎるとドクターから聞いていた。少し気をつけて見守らなければ。
「レッド、眠いのなら野営に案内しますよ」
私は立ち上がった。ソーンズは私たちの隊長だが、部下どころか小隊長の私たちの面倒までは見ないことが多い。私はウトウトしているレッドを野営キャンプへ案内した。
「あ」
「チューバイ、どうしたの?」
「いえ……夜空が、綺麗だなと思いまして」
「夜空……」
レッドは夜空を見上げた。彼女は夜空に浮かぶ星を美しいと思うだろうか。
「柔らかいボールはありますか? レッドの必需品と聞きました」
「ある」
そうして謎の赤いバックからレッドは柔らかいボールを取り出し、それを握ったままテントの中で横になった。彼女なりのストレス緩和方法と聞いたが、あのボールは一体なんだろうか? 聞いたことはないが、聞く必要はないと思っている。
「レッドが寝たのか」
レッドを寝かしつけると、いつの間にか目の前にソーンズがいて驚く。彼の靴は神経毒に溶けないように分厚いはずなのに、足音が最小限だから気配に気づきにくい。
「ええ。今は周りも落ち着いていますし、何かあれば彼女もすぐに動けるでしょう」
私はそこまでこの戦隊に長くいた訳ではないが、彼女の実力はすでに何度も目にしている。
「そうか」
ソーンズはそれだけ言って立ち去った。彼もあんなにぶっきらぼうだが、恐らく誰よりも私たちのことを気にかけているのだと思う。私は彼の後ろをついて歩いた。
「見回りなら、私もお供します」
「好きにしたらいい」
私はこの戦隊を、好ましく思っているかもしれない。
やがて、私たちのこの戦隊を「いつメン」と呼ばれるようになっていた。戦い方も立ち回りも皆個性があり統一性がないように見えるが、どこよりも連携力が高くバランスがいいと。
噂を広げたのは、あの部下オペレーターたちかもしれないな。
私は未来のために、剣を研ぎ始めた。
おしまい