第5章 癒しの尻尾
「それは、アニマルセラピーですね」
セラピー?
私は顔を上げた。思ってもいない言葉を返されて私は困惑していたが、アーミヤの表情は穏やかなものになっていて、更に困惑した。
「動物に触れると、癒し効果が得られるという医療方法です。ドクターずっと忙しいですからね。そのような方法で癒しを得るのは間違っていないと思います」
「そ、そうだったのか……」
ホッと胸を撫で下ろすというのはこのことか。私はアーミヤからの全否定を受けなかったことに酷く安堵した。きっと、記憶喪失前の私ならアニマルセラピーという言葉は知っていたのだろうが……まぁとにかく、面倒事は避けられそうだ、と思った矢先。
「でもドクター、何も尻尾じゃなくてもいいんじゃないですか?」
「え?」
「その……耳とか……」
途端にモジモジし始めるアーミヤ。その長いコータスの耳が大きく垂れ下がっていて、私はアーミヤを悲しませてしまったのかと慌てた。
「私には、長い尻尾はありませんが……私の耳なら、触ってもいいですよ……?」
「え……?」
そんなことが。そんなことがあっていいのか?
「ほ、ほら、頭撫でてくれたら、私も嬉しいですし! ドクターのセラピーにもなって一石二鳥だと思うんです! あの……ダメ、ですか?」
アーミヤのめったにないワガママを、断る理由はあるだろうか。こんな可愛いワガママを? しかも私も癒されるというおまけ付きワガママを??
「……私でいいのかい?」
嬉しい気持ちが滲み出ないように気をつけながら私はもう一度確認する。今度はしっかりと、アーミヤは大きく頷いた。
「もちろんです!」
ということで、私はアーミヤからの同意で頭を撫でさせてもらった。この心地よさを文章に残して置くと気持ち悪さ倍増だろうから明記はしないが、それはそれは天国だった。