第5章 癒しの尻尾
ということで。
マッターホルンの提案によって、執務室には「尻尾のある男子」が度々来るようになった。もちろん、尻尾の話は内密に広がって。
「おはようございます、ドクター」
そして今日の秘書はスチュワード。おはよう、と挨拶を簡単に済ませて尻尾を触らせてもらう。ありがとう、今日も頑張れそう。存在してくれてありがとう、癒しの尻尾!
しかしそうして何度も尻尾のある男子が執務室を行き通っていたのもあり、女子たちの間では良からぬ噂が広がっていたらしい。それを知ったのは、あの日のこと。
控えめに扉がノックされ、おや、このノックの仕方は……と思っていると、予想通りコータスの少女が入ってきた。アーミヤだ。
何やらいつもとは違う様子に、私は作業をやめてアーミヤへ目を向ける。アーミヤは足早に近づいて、私のデスクに両手を置いた。
「教えて下さい、ドクター。ドクターは本当に、尻尾のある男子にセクハラをしているんですか?」
え?
あまりにもの衝撃発言に声すら出なかった私。どゆこと?
私が驚きで言葉も発せずに硬直している間も、アーミヤは話し続けた。
「みんなが噂をしているんです。最近ドクターの秘書が尻尾のある男子ばかりだとか、執務室に来るのも尻尾がある男子ばかりとか。それでみんな怪しんで、良からぬセクハラをしているんだと噂をしています。嘘なら嘘だとはっきり答えて欲しいんです。嘘、ですよね? ドクター」
一気に話されて思考停止しそう。私はアーミヤの言葉を整理し、順を追って話を聞くことにした。
「えっと、その噂をしていたのは誰なのかな」
「パフューマーさんとクルースさんです」
「ああ……」
噂好きのあの二人か。私は納得した。
だが、どうしたものか。本当のことを言うしかなさそうだが、本当のことを言ったらどうなるのか。アーミヤのことだ。アーミヤに言ったことは、もれなくケルシーにも伝わる。
「……ドクター?」
アーミヤが不審がるようにこちらを呼びかけている。ずっと黙っていても、ますます怪しまれてしまうことだろう。
私は決意した。