第32章 インディゴにプレゼントする話
豊かなベージュ色の髪が乱雑に髪飾りに絡まっているように見えるのに、実際は清流の滝のように美しいそれがインディゴの髪の毛を形成していた。
私は彼女が長い髪を耳に掛ける仕草をちらりと見つめながら、机の引き出しに仕舞っていたものを取り出す。今日彼女を秘書として書類仕事を手伝わせているのは、このプレゼントを渡すためだった。
「インディゴ、ちょっと休憩しないかな?」
私が声を掛けると、インディゴの淡い灰色の瞳と目が合った。
「まだ仕事は始めたばかりなんですが……」
感情の色が薄いインディゴの声は、穏やか以外に何も汲み取れなかった。彼女がこんな仕事を、とかまだ休憩には早いとか、怒りを見せるタイプではないだろうが、確かに秘書としてインディゴが出勤してからさほど時間は経ってなかった。
「いいからいいから。少しだけ、私との余談に付き合ってくれるかな」
ちょいちょい、と指を折り曲げると、インディゴは遠慮がちにソファから立ち上がって机の前までやって来た。彼女は何か香水をつけているのか、ふわりと優しい香りがした気がした。
「これをね、プレゼントしたくて」
早速私が机の引き出しから取り出したものをインディゴ側に押しやると、彼女もさすがにわずかな驚きの顔を見せた。それもそうだろう。
「これは……?」
「ルームフレグランスだよ。趣味に合わないかな」
私が答えると、インディゴはそんなことないと慌てる素振りを見せる。だけど、とインディゴはプレゼントに用意したルームフレグランスをすぐには受け取らなかった。
「どうしてこれを私に……? 今日は誕生日でもないのですが……」
インディゴの顔から困惑は拭いきれない様子だった。