第27章 カイトさん
予定を合わせた俺たちは、いつもの場所で待ち合わせをして、カイトさんの家に向かった。
カイトさんの自宅はタワーマンションにあったが、そこは音楽家や音楽好き用の人のための防音がされてあり、つまりうるさくしてもいい人用の場所らしかった。そんなマンションがあるならこっちに引っ越しても良かったな。
「ようこそ、おんりーちゃん」
そうしてカイトさんに案内されたのは、白い壁に茶色い棚が高さ違いに設えられているリビング。棚には絵画や写真立てが置かれてあり、ジニアのグッズも置いてあった。全部測って置いているのかな。何よりカイトさんの匂いがする。俺をますます緊張させた。
「こっちが仕事場」
とカイトさんに言われて俺は気持ちを切り替える。カイトさんに呼ばれて入ったのは楽器部屋みたいなところ。カイトさんが言っていた電子ピアノだけでなく、色んな種類のギターが立てかけられてあったり、ドラムが一式あったりもしていた。作詞作曲家の仕事場ってこんな感じなんだ。
「ピアノの鍵盤が二段になってる……」
何より俺が驚いたのは、その電子ピアノというものが二段の鍵盤になっていたことだ。どうやって弾くのかと聞いてみれば、こんな感じだよと両手でやってみせてくれた。音はないけど、多分なんかの曲なんだろうな。
「それで、聴いて欲しい曲なんだけどさ」
と言いながらカイトさんが手に取ったのは一本のギター。詳しくはないけど、コードがないから多分クラシックギターというやつだ。
「あれ、ピアノは……?」
と俺がカイトさんを見やると、ニヤリとイタズラっぽく笑った横顔が見えた。
「実は、手直ししながらやりたいってのは嘘」
「え」
カイトさんが俺と目を合わせる。真っ直ぐ見つめられて、俺はその視線から外せなくなった。
「もう完成してるんだ。一番最初に、おんりーちゃんに聴いて欲しくて」そう言ってカイトさんはタイヤ付きの椅子を引っ張り出してそこに腰を下ろす。「おんりーちゃんのために捧げる『黄色い夜景』」
俺は目を見開き、一度瞬きをした。カイトさんはギターを掻き鳴らす。カイトさんの旋律が部屋中に響き渡り、やがて歌声がついてきた。カイトさんの弾き語りだ。
黄色い夜景を見に行こう
それはきっと祝福の音♪
僕らならどこへでも行ける
さあ 手を繋いで 明日へ〜♪
………………。
