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黄色い夜景の歌

第26章 そして


「いやぁ、お疲れ様でした!」
 撮影後の雑談。ドズルさんを最初に、みんなが口々にお疲れ様ですと言い合う。
「楽しかったです!」
 とクレナイさんを先に、あの時何が面白かったとかすごかったとか話が盛り上がる中、俺は静かに会話を傾聴していた。
 カイトさんの言葉を漏らさないようにしていたって聞かれたら、多分そうだろうな。
 そしたらカイトさんから名前を呼ばれ、ちょっと二人で話そうよとみんなの前で誘われて、恥ずかしかったけど平静を装いながらいいですよ、と応えて。
 通話アプリ内のチャンネルの一つに入ると、ピロンと通知音が鳴ってカイトさんが入ってきた。念の為他の人が茶々入れに来ないか見張って置くが、それぞれ別の用事を済ませてくるらしいので大丈夫そうだ。
「改めてお疲れ様、おんりーちゃん」
 カイトさんの優しい声が、画面越しで聞こえてくる。それだけで嬉しかった。
「お疲れ様です、カイトさん」
 俺は普段通り挨拶を返してカイトさんの言葉を待つ。今あの話をここでするのだろうか。緊張する。
「俺今さ、新しい歌を作っているんだ〜」身構えていたというのに、カイトさんが唐突にそんな話をし出す。「だけどまだ完成していなくて。歌う人が納得するかどうか分かんなくて悩んでるんだ」
「悩み……でも俺に言われても、力になれるかどうかは……」
「今度俺の家で、この歌の感想聴かせてくれない?」
「え」
「家に電子ピアノあるからさ、音調整しながら手直ししやすいし、どう?」
 ……え。
 カイトさんの家に?
 ジニアの新曲が聴ける?
「聴きたいですっ」
 俺は小さく叫んだ。ファン丸出しな回答に、俺は慌てて自制心を引っ張り出して、あまり音楽には詳しくないと付け足して置く。だけどカイトさんは朗らかに笑って、はっきりとこう言うのだ。
「おんりーちゃんに聴いて欲しいんだ」
 俺はいつも、この人の言葉に振り回されてばかりだ。
 ……けど俺は。
「ありがとうございます。どの日がいいですか?」
 俺は予定を確認した。
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