第22章 それはもう
「美味そうな匂いだね〜」
「わ、カイトさん?」
声がして横を見やるとそこにはカイトさんが。足元にはらいくんがついて回っていて、あの短時間ですっかりカイトさんに懐いたみたいである。
「持って行きますから、待ってて下さい」
今日は俺がもてなすんでと言うと、カイトさんははーいと言いながら素直にリビングへ戻っていく。俺はクルクル巻いて皿に盛りつけたパスタを二つ、リビングのテーブルへ運んだ。
「どうぞ」
「美味そ〜」
俺がパスタをテーブルに置くと、カイトさんは肺いっぱいに息を吸って香りを楽しんでいる。それからさっと目を向けてくるから、俺は反射的にカイトさんから視線を逸らした。
「俺がタラコ好きなの知ってたんだっけ」
「あ、いや、メーディさんから聞きました」
「ああ、メーディがねぇ」
直後、俺はフォークを忘れていたことに気づいた。すみません、フォーク出します、と俺は急いでキッチンに戻る。……俺、今絶対怪しいことばかりしてるよな。
「どうぞ」
食器棚の引き出しからフォークを取り出してカイトさんに渡す。今度は指先が当たらないように気をつけながら。
「ありがと」
カイトさんは特に変わった様子もないままフォークを受け取って、頂きます、とパスタを一口。俺は味が気になって黙って見守っていた。
「ん、美味い!」
途端に綻ぶカイトさんの顔に俺は安堵感を覚え、自分のパスタを食べる。なかなかいい出来だと自分でも思った。
「ね、おんりーちゃん」少し食べたあとくらいに、カイトさんが話し出す。「さっきから、目合わないんだけど、俺なんかした?」
「いや、そんなことは」
俺は慌てて目を合わせる。カイトさんのちょっと寂しそうな顔が映って、俺はそんな顔をさせたくなかったんだと何か言葉を探した。
だけど、浮かんできたのは一言だった。
俺はまた、カイトさんから目を逸らした。