第21章 気づき
「猫、好きですか」
突然のメッセージ。俺にしては唐突過ぎる一言だった。やっぱ送信取り止めようかな、なんて悩んだけど、さっき送ってきたメッセージがなんだったのか聞かれたらますます気まずいからやっぱりやめた。
スマホをソファに放り出して崩れるようにそこに座る。ため息が漏れた。
「何してるんだろ、俺」
何がしたいのか自分で分からなくなることなんてあるんだ。俺はいつだって目的を明確にしていて……ああ、いや、大学を辞めたのはさすがに漠然とし過ぎたよな。そうだ、その時の気持ちに似ている。どっちつかず、フラフラとしているような、あの時に。
そんな俺の感情なんて知るはずもないスマホが、何か通知が来たことを知らせてきた。急いで画面を開く。カイトさんからだった。
「好きだよ」
たった一言にドキリとしてしまう俺。話を振ったのは俺なのに、これは無意識に仕掛けた策略に見えて自分でもあのメッセージを送ったことを後悔。いやでもとりあえず、猫の話をした理由くらいは答えないと。こうして返信が来た訳なのだし。
「俺の家に来ませんか?らいくんって猫がいるんです」
とそこにいるらいくんを写真に収めてカイトさんにメッセージと一緒に送ってみる。らいくんが動いちゃったから、少しブレちゃったけど。
「可愛い!会いたい!」
カイトさんからの反応はそれだけだった。ついでにスタンプもついてはいたけど、可愛いのはカイトさんの方である。何このスタンプ、可愛いんだけど。
そうして俺は予定を聞いて、本当にカイトさんが家に来ることとなった。じゃああの待ち合わせ場所で、とメッセージのやり取りは終わったが、俺の中では緊張が半端なかった。
カイトさんをしっかりもてなす準備をしなきゃ。
俺は家中を確認して回り、足りないものはないかとか、ゴミが散らかっていないかなどと探したり片付けたりした。足りないものは買いに行って、なんの料理を作るかも考えて置こう。何かないかな、とスマホを手に取ってウロウロし始めた俺の足元で、らいくんは不思議そうにこっちを見上げていた。