第15章 お疲れ様会
なのにそんな心境を見透かされたのかなんなのか、飲み物を片手にカイトさんが俺の隣に座ったのだ。見ると他のメンバーもいつの間にか席をあちこちと移動して歓談を楽しんでいる。
「全然目を合わせてくれないから来ちゃった」
と言いながらこちらに向かって首を傾けるカイトさんはイケメンのソレ。何を言っているんだと、頭の中のことなのに自分で自分にツッコミをしてしまう。俺はなんとか目を合わせようとした。
「すみません……」
「ん」
俺は謝ってカイトさんを見やったが、カイトさんはそこまで怒っているどころかトロンとした目でこっちを見つめていて俺はますます緊張した。カイトさんの手元にあるのはお茶のように見える飲み物。確か、何とか焼酎のお茶割りだった気がする。アルコールの匂いがわずかにした。
誰かこの状況を助けてくれと他のみんなを見渡すと、メンバーはそれぞれジニアの人たちとああでもないこうでもないと楽しんでいて俺とカイトさんのことは誰も気づいていないみたいだった。俺は仕方なくカイトさんへ視線を戻すと、あまりにもの距離の近さにドキリとした。
「このまま抜け出しちゃう? 二人で」
「え」
これが男女の会話だったら駆け落ちする寸前のおとぎ話だ。周りはガヤガヤと騒々しいのに、俺とカイトさんの周りだけそれらが全て消えて二人だけの世界になったみたいだった。
「……どこ行きます?」
期待とちょっとした不安感を抱えながら俺は聞いた。目の前のカイトさんは、意地悪そうに笑みを浮かべて小声で囁いた。
「いいところ」
俺の心臓はますます早まった。これって普通は女性を口説く時に言うものではないのか。俺はカイトさんがなぜそう言ったのか理解出来ないまま、流されるように、コクンと頷いていた。
「俺たち、先に帰りまーす!」
カイトさんのよく通る声が酒席の間を割った。俺は気づいたらカイトさんに手を引かれていた。ぼんさんはそんな俺たちに茶化すようなことを言ってきたが、ドズルさんが気を利かせてくれたのか「ここは奢るから気をつけて」と見送ってくれた。