第9章 GG
それからというものの、俺はカイトさんの歌い方を真似したりして、あ、これが推しってものなんだと自覚した。推しがいる世界は、いつも以上に楽しくて嬉しかった。暇な時は少しだけでも配信を見に行けることが嬉しかったし、気づいたらカイトさんやジニアの歌を口ずさんでいたりして。
そして、ドズル社メンバーでカラオケに行った時に歌上手いじゃんって唆されるようになり()歌みたを出すようにはなった。俺はジニアとカイトさんと歌のおかげでより世界が広がったのだ。歌が好きになったのも、勇気をくれたのも、カイトさんの歌声なのは間違いがないのだ。
という考えまで至って俺は気づいた。だからこそ、落ち込んでいたりネガティブなことを言うカイトさんに心を痛めていたのだ。カイトさんだって人間だし、ネガティブなことを言うなってのは無理だとは思ってるけど。
「……力になりたい」
一人部屋で、思わず口をついて出たのはそれだった。そっか。俺、推しのことを助けたいと思ったんだ。
脳裏にはドズぼんのことが浮かんだ。結局俺はいつも誰かを助ける側だけど、悪い気はしないし、むしろ進んでやる。それはカイトさんでも同じだし、俺の性格なんだろう、と思うことにした。
……この時の俺は、なぜかカイトさんだけを特別に思わないように気をつけていたのだ。その理由を考えるのも、少し怖い気がしていたから。