【薬屋のひとりごと】後宮の外に咲く毒の華【R指定】
第14章 【R指定】初恋的回忆〜初恋の思い出〜⑤
壬氏はその事を思い出したながら、その時の月娘の表情を思い浮かべた。
いつからー。
いつから月娘は自分をそんな冷たい目で見ていた?
ここ数年の時間を遡っても、壬氏は月娘の笑みを思い出せなかった。
宮中の中庭で、出会った時に微笑んでいた少女はもう居なかった。
壬氏は強く拳を握った。
「枋家の月娘を俺の宮に呼べ。これは皇命だ。」
壬氏が皇弟になって初めての皇命は、月娘を自分の宮に呼ぶ事だった。
その冊封が届けばすぐに気がつくだろう。
壬氏にとって月娘がどんな女人なのか。
そんな堅固な気持ちで出した冊封さえ壬氏は不安だった。
月娘の気持ちが自分から離れている。
そんな不安に胸を締め付けながら、それでも壬氏は冊封を枋家に送った。
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ーー
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「……皇命ね……。」
月娘は壬氏の冊封を見て無表情でそれを机に広げた。
昔壬氏は月娘に手紙を書く時は、上質の紙に彼の上質の伽羅の香りがした。
今手にある冊封は、ただの紙切れの様だった。